カメラ上級者は、RAW現像を通じて光と色の原理を学びます。その結果、撮影現場での設定・ライティングに対する意識が高まり、撮って出しJPEGでも狙った絵に近づけられるようになります。しかし、それはあくまで「作業負担の軽減」や「効率化」での最適化がなされた結果であって、最初からJPEG撮って出しだけで完結するのとは少し違います。「技術の向上があった上で簡素化していく」、これは、楽器演奏者、料理人、大工などの全ての上級者に通じることだと思います。
まず、カメラの仕組みをおさらい
カメラは、レンズを通して取り込んだ光の情報を、センサーで受け取って数値配列として記録しています。この生の数値データこそがRAWファイルの正体です。しかし、この段階では人間が見て美しいと感じる画像にはなっていません。
そこでカメラは、このRAWデータをリアルタイムで画像処理エンジンにかけて処理します。メーカーが長年培ってきた技術とノウハウで「こういう画像に仕上げよう」という明確な意図のもと、明るさの調整、色彩の補正、コントラストの最適化、ノイズの除去などを瞬時に行っています。つまり、私たちがファインダーや背面モニターで確認している画像は、すでにメーカーの画像処理が施された状態なのです。そして、その処理結果として出力されるのがJPEG(撮って出し)というわけです。
ただし、カメラ内に搭載されている画像処理プロファイルは、どんなに多機能なカメラでも20種類程度が限界です。ポートレート、風景、スポーツ、夜景など、基本的なシチュエーションには対応できますが、撮影者一人ひとりの細かな表現意図や、刻々と変わる光の条件に完璧に対応することは不可能です。そのため、より自分の思い描いた表現を実現するために、RAW現像を行っています。
RAW現像が写真家を成長させる
RAW現像に取り組み始めると、写真の根本的な原理原則への理解が飛躍的に深まります。シャドウ部をもう少し明るくしたい時に「次回はもう1段階露出を上げて撮影しよう」と考えるようになったり、「レフ板を使って影を起こそう」「ストロボで光を補おう」といった撮影現場での具体的な解決策を思いつくようになります。
パソコンの前でRAW現像をしながら「この部分の色がもう少し鮮やかだったら」「コントラストがもう少し強ければ」と感じる度に、撮影時の設定や機材に対する要求が明確になってきます。やがて「現在使っているカメラの色傾向では、自分の表現したい世界観に限界がある」「もっと自分の意図に近い描写をしてくれる機材はないだろうか」と考えるようになり、異なるメーカーのカメラを試すようになります。時には、レンズ資産を全て手放してでも、マウントシステムごと変更することも珍しくありません。
熟練者が辿り着く境地
このような試行錯誤を何年も続けていると、ついに自分の感性と完全にマッチするカメラがみつかります。そして長年の経験により、撮影現場で光の質や方向を瞬時に読み取り、カメラの色彩設定を的確に調整し、レフ板やストロボを使って光と影を思い通りにコントロールできるようになります。
この段階に達すると、JPEG撮って出しでも、自分が心に描いていたイメージにかなり近い画像を得ることができるようになります。RAW現像に費やしていた時間を撮影に集中できるようになり、撮影のテンポも格段に向上します。まさに「カメラが上手な人はJPEG撮って出し」という状況が現実のものとなるのです。
撮って出しJPEGでは満足できない
ところが、どれほど熟練した写真家でも、JPEG撮って出しで100点満点の結果を得ることは稀です。カメラ内蔵のJPEG画像処理エンジンは、汎用性を重視した「無難な」仕上がりになりがちで、個性的な表現や細かなニュアンスの調整には限界があるからです。
特に商業写真の分野では、クライアントの要求や作品のコンセプトに合わせて、より精密で個性的な色彩表現が求められます。こうした場合には、やはりCapture OneやLightroomといった専門的なRAW現像ソフトウェアの豊富なプロファイルと高度な調整機能を活用する方が、圧倒的に高品質で表現力豊かな結果を得ることができるのです。
つまり、本当にカメラが上手な人は「RAW現像で原理を学ぶ過程で、撮影現場で最大限の調整を行うようになり、JPEG撮って出しを基本としながらも、必要に応じてRAW現像も駆使する」というのが答えになると思います。